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数字の裏にある「声」を聴く。【都道府県別データ】地域格差の時代に、私たちが人を採用するために本当に必要なこと

9月29日
読了時間: 11分

更新日:4 日前


「地方だから、優秀な人材が集まらないのだ」

「都市部だから、ライバル企業が多すぎて採用できないのだ」


いま、全国各地の経営者や採用担当者のみなさんとお会いすると、必ずと言っていいほどこのような声が聞こえてきます。


都市部には都市部の、地方には地方の、それぞれ異なる「溜め息」があります。


けれど、ここで少しだけ冷静になって考えてみてほしいのです。 私たちが本当に立ち向かうべき相手は、「地域」そのものなのでしょうか。


ここに、厚生労働省ならびに総務省のデータ(『労働力調査』長期時系列データ)から作成された、都道府県別の有効求人倍率グラフがあります。2025年7月と2026年7月を比較した、リアルな数字の記録です。


このグラフを単なる「地理的な統計」として眺めるのではなく、その土地で暮らし、働き、悩んでいる「人間のドラマ」として翻訳してみましょう。


そこから浮かび上がってくるのは、これまで私たちが信じ込んできた「採用の常識」を根底から覆すような、衝撃的な「地域のリアル」です。


目次


1. データで見る「都道府県別・有効求人倍率」の全体像


まずは、日本全国でいま何が起きているのか。グラフが示す全体像をデータとして整理してみます。


【都道府県別 有効求人倍率の分布イメージ(2026年7月)】

 高 (倍)
2.00 ┤
1.80 ┤                                           ■ (福井 1.70前後)
1.70 ┤                       ■ (東京 1.70前後)  ■
1.50 ┤          ■ (香川)    ■                 ■ (富山・石川)
1.30 ┤ ■ (愛媛) ■          ■                 ■
1.10 ┤ ■        ■          ■       ■ (群馬)   ■          ■ (福島・山形)
1.00 ┼───────────────────────────────────────────────────────────── (全国平均ライン 1.16倍)
0.80 ┤                            ■ (神奈川 0.80台)       ■ (北海道 0.90台)
0.50 ┴─────────────────────────────────────────────────────────────► 都道府県
       沖縄 ・・・ 福岡 ・・・ 香川 ・・・ 東京都 ・・・ 神奈川 ・・・ 福井 ・・・ 北海道

このグラフを一目見て、みなさんは何を感じるでしょうか。

全国平均は「1.16倍〜1.20倍」の間に収まっています。


しかし、グラフの山と谷の激しさを見てください。 ある県では山が突き抜け、ある県では谷底に落ち込んでいます。同じ「日本」という国の中にありながら、地域によってまったく異なるゲームが行われていることが分かります。



【表1】主要都道府県別 有効求人倍率の推移(2025年7月 vs 2026年7月)

(※厚生労働省・総務省「労働力調査」季節調整値データに基づき算出)

地域区分

都道府県名

2025年7月

2026年7月

状況・難易度レベル

北陸エリア

福井県

1.72倍

1.69倍

🚨 全国トップクラス(空前の超・人手不足)


石川県

1.61倍

1.52倍

🔴 極めて厳しい(モノづくり・観光の過熱)


富山県

1.48倍

1.45倍

🔴 非常に厳しい

首都圏エリア

東京都

1.71倍

1.69倍

🚨 全国最高峰(空前の求人ラッシュ)


埼玉県

1.01倍

0.99倍

🟡 平均以下(ベッドタウン型)


千葉県

0.99倍

0.97倍

🟡 平均以下


神奈川県

0.83倍

0.82倍

🔵 全国最低レベル(求職者過多)

四国エリア

香川県

1.48倍

1.43倍

🔴 厳しい(局所的ハイレベル)


愛媛県

1.45倍

1.42倍

🔴 厳しい

北関東エリア

群馬県

1.31倍

1.28倍

🟠 やや高水準(製造・物流の拠点)

東北エリア

山形県

1.38倍

1.32倍

🟠 やや高水準


福島県

1.28倍

1.29倍

🟠 やや高水準

その他・主要

北海道

0.98倍

0.96倍

🔵 1.0倍割れ(買い手市場傾向)


沖縄県

0.96倍

0.98倍

🔵 1.0倍割れ(構造的求人不足)


2. グラフから読み解く「3つの奇妙な現象」


このグラフをじっくり観察すると、一見すると矛盾しているように見える「3つの奇妙な現象」に気づきます。



現象①:なぜ「福井県」や「北陸」が、東京並みに突き抜けているのか?


グラフの中で、東京都(1.69倍)と並んで圧倒的な高水準を誇っているのが、福井県(1.69倍)をはじめとする北陸勢です。


「大都市でもないのに、なぜそんなに人が足りないのか?」と不思議に思われるかもしれません。


実は、福井県や富山県は、日本有数の「ものづくり王国」であり、同時に「共働き率・女性就業率が日本一高い地域」でもあります。 すでに働ける大人は全員働いている。その状態で地場の優良メーカーやインフラ企業、建設業が好調を維持して求人を出し続けているため、「これ以上、地元の労働者プールが増えない」という極限の売り手市場が完成しているのです。


ここでは「地元で探せばなんとかなる」という発想そのものが通用しません。



現象②:東京(1.69倍)と神奈川(0.82倍)の「壁一枚」の断絶


一番ショッキングなのは、首都圏のデータです。


東京都は1.69倍という圧倒的な求人倍率を記録しています。仕事が溢れかえり、企業は血眼になって人を奪い合っています。 ところが、電車で30分しか離れていない神奈川県を見ると、倍率はなんと0.82倍まで落ち込んでいます。1.0倍を大きく割り込んでいるのです。埼玉県(0.99倍)や千葉県(0.97倍)も同様に1.0倍前後にとどまっています。


同じ「首都圏」でありながら、目と鼻の先でこれほどの格差が存在するのはなぜでしょうか?


答えは「本社機能と就業場所の集中」にあります。 求人票の多くは「本社がある東京都」で受理されます。そして、神奈川や埼玉に住む求職者の多くは、「横浜や川崎の地元で事務職や接客職を探したい」と考えます。


その結果、「東京=企業の求人ラッシュ」「周辺県=求職者が溢れるベッドタウン」という、極端なミスマッチが隣り合わせで発生しているのです。



現象③:「1.0倍割れ地域」に潜む罠


北海道(0.96倍)や沖縄県(0.98倍)、そして神奈川県(0.82倍)のように、1.0倍を下回る「買い手市場」の地域もあります。


これを見て「なんだ、うちの県は1.0倍以下だから、採用は楽なはずだ」と安心されたなら、それもまた大きな間違いです。


先ほど見た「職種別データ」を思い出してください。 1.0倍を割っている地域の多くは、「一般事務」や「接客」を希望する求職者が大量に数値を押し下げているだけに過ぎません。 その裏で、建築、IT、医療、営業といった職種は、北海道であれ沖縄であれ、激しい争奪戦が繰り広げられているのです。


3. 「地域×職種」の掛け算がもたらす悲劇


私たちが直面している採用難の本質は、「地域による偏り」と「職種による偏り」が交差する場所にあります。


たとえば、次のようなマトリクス(組み合わせ)をイメージしてみてください。


【地域×職種の難易度マトリクス】

                 │ 【都市部】(東京・愛知・大阪)  │ 【地方部】(福井・山形・地方都市)
─────────────────┼──────────────────────────────┼─────────────────────────────────
【超手不足職種】 │ [難易度: 測定不能]            │ [難易度: 絶望的]
(建築・介護・IT) │ 札束の殴り合い。              │ そもそも対象人物が1人も存在しない。
                 │ 大手・高年収企業に奪われる。  │ 条件を上げても応募ゼロが続く。
─────────────────┼──────────────────────────────┼─────────────────────────────────
【供給過多職種】 │ [難易度: 厳選可能]            │ [難易度: 局所的過熱]
(一般事務・単純作業)│ 1人の募集に数千人が殺到。     │ 安定志向の応募者が殺到。
                 │ 優秀な層の厳選が課題。        │ 採用は容易だがミスマッチに注意。

もしあなたが「地方」で「建築技術者(求人倍率6.65倍)」を採用しようとしているなら、それは難易度で言えば「ゲームの最高難易度(ハードモード)」を素手でクリアしようとするようなものです。


地元のハローワークに求人票を出して、誰かがドアを叩いてくれるのを待つ——。 そんな従来通りの採用活動を行っていては、1年待っても、2年待っても、応募通知のベルが鳴ることはありません。


4. 地方企業が勝つための「4つのブレイクスルー」


では、地方に拠点を置く企業、あるいは倍率1.5倍〜1.7倍という激戦区に身を置く中小企業は、どうやって生き残ればいいのでしょうか?


必要なのは、根性論でも、莫大な求人広告費でもありません。 「採用のパラダイム(前提条件)」をガラリと変えることです。


具体的には、次の4つのアプローチが挙げられます。

┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
│           地方企業が人を惹きつける「4つのアプローチ」          │
├─────────────────────────────────────────────────────────┤
│ 1. 「通勤圏の壁」を壊す(フルリモート・多拠点・移住支援)│
│ 2. 「地域の当たり前」を「都市部の憧れ」に翻訳する        │
│ 3. 「求人票の条件」ではなく「社長の思想」を届ける       │
│ 4. 「即戦力採用」を諦め、「自社育成」のストーリーを見せる │
└─────────────────────────────────────────────────────────┘

アプローチ①:「通勤圏の壁」を壊す


なぜ「地元の求職者」だけにこだわるのでしょうか。 福井や山形、香川の企業であっても、業務の一部(マーケティング、デザイン、設計、バックオフィス、IT推進など)は、東京や神奈川に住む優秀な人材に「フルリモート」で委託・採用することができます。


また、現場作業が必要な職種であっても、「住宅手当の完全支給」「移住支援金」「お試し転職体験」を用意することで、都市部の「満員電車と高い家賃に疲弊した層」を地方へ呼び込むことが可能です。

自社の採用ターゲットを「車で30分圏内」から「日本全国」へと広げた瞬間、目の前の倍率は一気に下がります。



アプローチ②:「地域の当たり前」を「都市部の憧れ」に翻訳する


地方企業の発信でよくある失敗が、「うちは田舎で何もないから…」と謙遜してしまうことです。

都市部で働く20代〜30代の若者にとって何が魅力的に映るか、考えてみたことはありますでしょうか?


  • 「混雑とは無縁の車通勤(ストレスゼロ)」

  • 「満天の星空と、車で10分で行ける海や山」

  • 「家賃5万円で住める、広々とした一戸建て」

  • 「職場の目と鼻の先にある保育園」


地方で暮らす人々にとっての「当たり前の日常」は、都市部の人々にとっては「喉から手が出るほど欲しい豊かさ」なのです。 自社の求人を出すときは、単に仕事内容を書くのではなく、「この土地で暮らすことの幸福感」をセットで翻訳して伝える必要があります。



アプローチ③:「条件」ではなく「思想」で惹きつける


地方の中小企業が、大手企業と「給与」や「年間休日数」で勝負しようとしても、勝ち目はありません。条件競争に巻き込まれた時点で敗北が決まります。


では、何で勝負するのか? それは「思想(パーパス)」と「人間の魅力」です。


  • 「私たちはなぜ、この土地でこの事業をやっているのか」

  • 「この事業を通じて、地域社会のどんな問題を解決したいのか」

  • 「社長である自分が、どんな未来を夢見ているのか」


熱量のある言葉には、条件の格差を飛び越えて人の心を動かす力があります。「給与はそこそこでもいい。この社長と一緒に、この地域で面白い仕事がしたい」と思わせるストーリーを発信できているでしょうか。



アプローチ④:「育てる環境」をストーリー化する


「経験者」の奪い合いに参加するのを、今日からやめてみましょう。


求人倍率1.6倍のエリアで「業界経験5年以上」の求人を出しても、誰も来ません。 それよりも、「未経験からプロに育てる1年間の研修カリキュラム」を用意し、「ゼロからあなたを育てます」と宣言するのです。


求職者が一番恐怖を感じているのは、「入社しても放置されるのではないか」「ついていけなかったらどうしよう」という不安です。 「育ててくれる安心感」を提示できる企業には、未経験であってもポテンシャルの高い若者が、全国から集まってきます。


5. 都市部(東京・大都市圏)の企業が陥る「無自覚な罠」


一方で、1.69倍という極限の過熱状態にある「東京都」や「大都市圏」の企業は、どうでしょうか。


「都市部には人がたくさんいるから、スカウトメールを出せば反応があるはずだ」


そう高を括っている企業ほど、いま深刻な「スカウトスルー(完全無視)」に苦しんでいます。


都市部の優秀な求職者のSNSや求人サイトの受信箱には、毎日何十件ものスカウトメールが届いています。


スカウトメールの99%は、テンプレ文面で「あなたの経歴を拝見し、素晴らしいと感じました」と書かれた機械的な文章です。求職者はそれを一目見ただけでゴミ箱へ捨てています。


都市部の採用で勝つために必要なのは、量(数打ちゃ当たる)ではなく、徹底した「個別の熱量(パーソナライズ)」です。


  • 「なぜ、他の誰でもなく『あなた』なのか」

  • 「あなたの過去のどの実績・どの言葉に心を打たれたのか」

  • 「うちの会社のどのプロジェクトに、あなたの力が不可欠なのか」


一人の求職者のために、30分かけて文章を紡ぐ。 そんな手間の集積だけが、倍率1.69倍のノイズの中から自社の声を届ける唯一の方法なのです。


6. おわりに:数字を見るな、「目の前の人」を見よう


2025年から2026年にかけての「都道府県別・有効求人倍率」のデータを見てきました。


1.69倍の東京や福井。 0.82倍の神奈川。 1.0倍前後の北海道や沖縄。


数字だけを見れば、日本全国がバラバラの課題を抱え、八方塞がりのように思えるかもしれません。

けれど、どうか忘れないでください。


有効求人倍率という数字は、ただの「市場の平均」に過ぎません。 あなたの会社が採用したいのは、「1.16人」という統計上のデータではなく、血の通った「たった一人の人間」なのです。


その一人の人間は、どこにいて、どんな仕事に悩み、どんな暮らしを望み、どんな言葉に胸を熱くするのでしょうか?


グラフの数値を嘆く時間を、目の前にいる(あるいは画面の向こうにいる)「一人」の心に寄り添う時間に変えてみてください。


「わが社は、こんな想いで仕事をしている」

「あなたと一緒に、こんな未来を作りたい」


その愚直なまでの誠実さと自らの言葉こそが、都道府県の境目も、求人倍率の壁も軽々と飛び越えて、

最高の仲間を引き寄せる光になるのですから。


(※本記事内のデータは、厚生労働省・総務省「労働力調査(長期時系列データ)」を参照しています)



この記事の執筆者

坂本 迪宇

ネットフェニックス合同会社 代表取締役


神戸市在住。営業(全国5位)、コールセンターの現場改善、難関塾(灘中・洛南・東大寺・開成・麻布など)のマーケティング(10年で灘中合格約100名)を経験。泥臭い「現場の対話」と「再現性のある仕組み」を武器に、企業の集客と組織づくりを支援しています。


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