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数字の裏にある「声」を聴く。【賃上げ状況データ徹底解剖】「給与を上げる/上げない」の選択が、企業の寿命を決める時代に

6 日前
読了時間: 15分

更新日:4 日前


「他社が賃上げをしているから、うちも上げざるを得ない」

「物価が上がっているのだから、給与を上げるのは当然だ」


いま、全国の経営者や人事担当者の皆さんと膝を突き合わせて話をしていると、誰もが深い溜め息とともに、この「賃上げ」という重たいテーマを口にします。


けれど、ここで立ち止まって、一度胸に手を当てて考えてみてほしいのです。


私たちは、本当は何のために賃上げを議論しているのでしょうか? 単に「世間の流行り(トレンド)」に乗るためでしょうか。それとも「社員からの不満」を一時的に抑え込むための鎮痛剤なのでしょうか。


ここに、株式会社マイナビが調査した非常に興味深いデータがあります。 テーマは「今後の賃上げ予定や検討(2025年に増やす予定・検討)」。


このデータは、単なる「パーセンテージの羅列」ではありません。 ここには、過酷な物価高と人手不足に喘ぐ日本企業の「迷い」、大企業と中小企業の間に横たわる「残酷な格差」、そして新規採用者と既存社員の間で生じている「いびつな歪み」が、包み隠さず映し出されています。


この膨大なデータを、古賀史健の対話の思考で、一つひとつ解きほぐしてみましょう。 数字の裏側にある「人間の声」を聴く旅へ、ようこそ。


目次


1. データが語る「賃上げ市場」の全体像(新規採用 vs 既存社員)


まず、今回の調査データの全体像を正確に把握することから始めましょう。


調査では、賃上げの対象を大きく2つのカテゴリーに分けています。 1つ目は「新規中途採用者(これから採る人)」の初任給や提示年収。 2つ目は「継続雇用者(既存社員・現従業者)」の定期昇給やベースアップ(ベア)です。


それぞれの全体平均を見てみましょう。

【2024年全体:賃上げ予定企業の割合(100%引き上げ〜1.5%未満の合計)】

■ 新規中途採用者 : 71.1% (2023年:71.8%)
■ 継続雇用者(既存): 71.5% (2023年:73.9%)

 100% ───────────┐
      │  [賃上げする]  │  [変わらない/下がる/分からない]
  70% ┤  約 71 %      │  約 29 %
      │               │  
   0% └───────────────┴───────────────────────────────

これを見ると、「なんだ、7割以上の企業が賃上げを予定しているじゃないか。日本経済も捨てたものではないな」と思われるかもしれません。


しかし、もう少し解像度を上げて、その「内訳(引き上げ幅)」を見てみましょう。 ここに、第一の重要な示唆が隠されています。



【表1】賃上げ幅(%)ごとの全体内訳比較(2024年調査)

(※株式会社マイナビ「中途採用状況調査」より。賞与などの一時金は含まず、定期昇給・ベアのみ)

区分

+20%以上上げる

+10%以上〜20%未満

+4%以上〜10%未満

+1.5%以上〜4%未満

+1.5%未満

賃上げ計 (100%)

変わらない

前年より下がる

分からない

新規中途採用者

9.0%

18.7%

20.1%

19.6%

3.7%

71.1%

19.7%

1.0%

8.2%

継続雇用者(既存)

8.4%

15.1%

19.5%

24.5%

4.0%

71.5%

19.2%

0.9%

8.4%

この表をじっくり見比べてみてください。 「賃上げをする」と答えた全体の割合(約71%)はほぼ同じですが、「上げ幅(引き上げの強度)」に明確な差が出ていることにお気づきでしょうか。


  • 「+10%以上の大幅引き上げ」を予定している企業

    • 新規中途採用者:27.7% (9.0% + 18.7%)

    • 継続雇用者(既存):23.5% (8.4% + 15.1%)


つまり、「新しく入ってくる人には高い給与を払うが、今いる社員の給与引き上げ幅は抑えめにする」という構造が透けて見えるのです。


なぜこのようなことが起きるのでしょうか?


理由はシンプルです。市場で勝たなければ「新しい採用」ができないからです。


背に腹は代えられないため、新規採用の提示年収を無理やり引き上げる。

しかし、全員の既存社員の給与を同じペースで+10%以上上げる財務的体力はない。


ここに、多くの企業が抱え込んでいる「既存社員の不満」という爆弾の正体があります。



2. 企業規模別に見る「残酷すぎる格差」


次に、企業規模(従業員数)別のデータを見てみましょう。 グラフをスクロールしていくと、思わず息をのむような「壁」が現れます。

【企業規模別:賃上げ予定企業の割合(2024年)】

[ 1001名以上 ]  ██████████████████████████████████ 81.9% (新規) / 81.7% (既存)
[ 301〜1000名]  ████████████████████████████ 78.3% (新規) / 78.5% (既存)
[ 51〜300名  ]  ███████████████████████ 67.5% (新規) / 67.5% (既存)
[ 3〜50名    ]  ██████████████████ 48.7% (新規) / 52.0% (既存)

なんという違いでしょうか。


1,000名以上の大企業では、8割以上(81.9%)が賃上げを予定しています。 しかし、3〜50名の中小企業を見ると、新規採用で賃上げを予定しているのは48.7%。つまり半分以下の企業しか賃上げができないのです。



【表2】企業規模別 賃上げ詳細データ(2024年)

企業規模

区分

+20%以上

+10%〜20%

+4%〜10%

+1.5%〜4%

+1.5%未満

賃上げ計

変わらない

3〜50名

新規採用者

5.6%

13.4%

12.6%

13.1%

4.0%

48.7%

38.3%


既存社員

4.8%

12.6%

11.9%

24.5%

5.2%

52.0%

34.9%

51〜300名

新規採用者

7.7%

16.9%

17.1%

22.2%

3.6%

67.5%

22.2%


既存社員

6.1%

14.5%

17.1%

18.2%

5.1%

67.5%

21.0%

301〜1000名

新規採用者

11.2%

22.0%

23.3%

20.6%

3.7%

78.3%

13.7%


既存社員

11.3%

15.2%

21.1%

23.7%

2.2%

78.5%

14.9%

1001名以上

新規採用者

10.6%

21.2%

24.7%

18.0%

3.1%

81.9%

11.2%


既存社員

10.2%

17.0%

24.7%

27.6%

3.5%

81.7%

11.6%

このデータをどう読み解くべきでしょうか。


小規模企業(3〜50名)では、実に38.3%の企業が「変わらない(据え置き)」と答えています。既存社員に至っては34.9%が据え置きです。


これは、小規模企業の経営者が「社員に意地悪をしている」からでしょうか? 違います。上げたくても、原資がないのです。物価高や原材料費の高騰を価格転嫁しきれず、利益率が圧迫され、給与を上げる余力が残されていない。それが地方や小規模企業の切実なリアリティです。


しかし、求職者の視点に立ってみてください。


「A社(大企業):ベースアップ+10%、初任給アップ」

「B社(小規模):給与据え置き、あるいは微増(+1.5%未満)」


この条件が並んだとき、人はどちらを選ぶでしょうか。 大企業が給与を大きく引き上げる中で、中小企業が「据え置き」を選んだ瞬間、その企業は採用市場において「選択肢から消える」ことを意味します。


これが、小規模企業を襲う「賃上げ格差」の恐ろしい正体です。



3. 業種別に見る「勝者と敗者」のコントラスト


次に、業種別のデータに目を向けてみましょう。 ここには、日本経済の構造変化がそのまま映し出されています。

【業種別:賃上げ実施率トップ&ワースト(新規中途採用者・2024年)】

[ハイレベル業種(賃上げ率高)]
■ 環境・エネルギー   ████████████████████████████████ 86.7%
■ IT・通信・ネット    ███████████████████████████ 73.8%
■ 商社               ███████████████████████████ 77.0%
■ メーカー            ███████████████████████████ 76.6%

[ローレベル業種(賃上げ率低)]
■ サービス・レジャー ██████████████████████ 61.7%
■ 医療・福祉・介護   ███████████████████████ 65.1%
■ 公的機関           ████████████████████ 58.4%

【表3】主要業種別 賃上げ比較データ(2024年)

業種カテゴリ

区分

+20%以上

+10%〜20%

+4%〜10%

賃上げ計

変わらない

環境・エネルギー

新規採用

13.3%

26.7%

23.3%

86.7%

19.4%


既存社員

13.3%

13.3%

16.7%

80.0%

23.3%

IT・通信・インターネット

新規採用

11.8%

20.4%

21.3%

73.8%

22.2%


既存社員

11.3%

19.9%

20.4%

75.5%

26.2%

メーカー

新規採用

8.2%

21.1%

24.0%

76.6%

19.5%


既存社員

10.2%

16.7%

19.9%

77.2%

23.5%

サービス・レジャー

新規採用

5.6%

13.9%

14.4%

61.7%

29.5%


既存社員

4.1%

10.0%

12.8%

60.6%

31.1%

医療・福祉・介護

新規採用

5.9%

19.1%

13.8%

65.1%

22.8%


既存社員

6.6%

13.2%

20.4%

65.1%

28.3%

この業種別データから、何が読み取れるでしょうか?


1つは、「価格転嫁・生産性向上が得意な業界」と「そうでない業界」の二極化です。


環境・エネルギーやIT・通信といった分野は、事業の収益性が高く、コストの上昇をサービス価格に反映させやすいため、8割以上の企業が圧倒的なスピードで賃上げを断行しています。IT業界では新規採用で「+20%以上上げる」と答えた企業が11.8%に達しています。


一方で、医療・福祉・介護やサービス・レジャーはどうでしょうか。 介護や医療は公的な診療報酬・介護報酬に価格が縛られているため、企業努力だけで自由に価格を上げることができません。サービス・レジャーも過酷な価格競争に晒されています。


その結果、医療・介護やサービス業では賃上げ率が6割程度にとどまり、+10%以上の大幅アップに踏み切れる企業はごくわずかです。


しかし、前回の求人倍率データを思い出してください。 介護やサービス現場は、いま最も深刻な「人手不足」に悩まされている領域です。 「人が最も足りない業界で、給料が上げづらい」という、極めて過酷なジレンマがここに存在しているのです。



4. エリア(地域)別に見る賃上げの温度感


続いて、エリア別のデータを見ていきましょう。 都道府県別の有効求人倍率でも見たように、地域によっても賃上げの「温度感」には差が生じています。



【表4】地域別 賃上げ実施率比較(2024年)

エリア

新規中途採用者の賃上げ計

既存社員の賃上げ計

特徴・分析

東海

76.9%

74.0%

製造業(自動車産業等)の強い基盤により全国最高水準

中国・四国

77.5%

80.9%

既存社員への還元意欲が非常に高い(流出防止策)

東京

72.8%

71.1%

企業数が多いが、二極化(超高給IT vs 厳しい中小)も激しい

関西

70.1%

70.5%

全国平均並みだが、一部で慎重な姿勢

北海道

61.0%

64.4%

全国最低水準。賃上げしたくても原資が厳しい現状

九州・沖縄

71.3%

74.5%

半導体工場(TSMC等)特需エリア等で局所的に熱狂

ここで注目すべきは「東海エリア」と「中国・四国エリア」の高さです。


東海エリアは製造業の巨大なエコシステムが存在するため、大企業の賃上げ波及効果が下請け・協力会社へも比較的届きやすい特徴があります。 また中国・四国エリアでは、既存社員の賃上げ率が80.9%と全国で最も高い数値を示しています。これは、「若者の都市部流出」を食い止めるために、地場企業が危機感を持って既存社員の給与防衛に乗り出している証拠と言えるでしょう。


逆に、北海道は新規採用での賃上げ率が61.0%と最も低い水準です。地域経済の構造によって、「給与を上げられる地域」と「上げたくても上げられない地域」の分断が進んでいます。



5. 賃上げデータが突きつける「3つの構造的歪み」

ここまでデータを細かく見てくると、現代の日本企業が陥っている「3つの深い構造的歪み(罠)」が浮き彫りになってきます。

┌───────────────────────────────────────────────────────────────┐
│              賃上げ市場に潜む「3つの不都合な真実」            │
├───────────────────────────────────────────────────────────────┤
│ 罠①:【新卒・中途ハイ】と【既存社員デフレ】の二重価格         │
│ 罠②:【大企業の独走】による中小企業の「採用死」             │
│ 罠③:【防衛的賃上げ】による「利益なき繁忙」の発生           │
└───────────────────────────────────────────────────────────────┘

罠①:【新卒・中途ハイ】と【既存社員デフレ】の二重価格


新規中途採用者の初任給や提示年収だけを無理に引き上げ、既存社員の昇給を据え置いたり微増にとどめたりすると、社内で何が起きるでしょうか?


「新しく入ってきた知識も経験も浅い中途社員の方が、10年働いている自分より給与が高い」


という逆転現象(あるいは同等現象)が発生します。


これが既存社員に知れ渡ったとき、社内のモチベーションは壊滅的な打撃を受けます。長年会社を支えてきたエース社員ほど「バカバカしくてやっていられない」と静かに去っていき、残ったのは高給で採ったものの期待通り動かない中途社員だけ……。


採用のための「外面の賃上げ」は、内部崩壊の引き金になり得るのです。



罠②:大企業の独走による中小企業の「採用死」


大企業が+10%以上の賃上げを軽々と行い、初任給を30万円近くまで引き上げる中で、中小企業が「前年踏襲」や「+1.5%未満」の賃上げにとどまっていると、求職者からの見え方はどうなるか。


「あの会社は、社員を大切にしていない」

「あの会社は、将来性がない」


そう見なされてしまうのです。


本当は事業内容が素晴らしく、アットホームで働きやすい優良中小企業であっても、「賃上げの数値」というわかりやすい記号によって切り捨てられてしまう。これが中小企業を苦しめる残酷な現実です。



罠③:利益なき「防衛的賃上げ」

多くの企業で行われている賃上げは、事業が拡大して利益が出たから還元する「攻めの賃上げ」ではありません。


「上げないと人が辞めてしまうから」

「上げないと誰も応募してこないから」という「防衛的賃上げ」です。


生産性(1人あたりの稼ぐ力)が上がっていないのに、コストとしての給与だけを無理に引き上げれば、企業の利益率は削られ、設備投資や教育投資に回すお金がなくなります。 結果として企業体力が弱り、数年後に倒産リスクが高まるという本末転倒の事態を招きます。



6. 「ただ上げる」から脱却する。中小企業が採るべき「5つの戦略」


では、潤沢な資金力を持つ大企業のように無条件で給与を上げることができない中小企業や、価格転嫁の難しい業種の企業は、どのようにしてこの「賃上げ狂騒曲」を生き抜けばよいのでしょうか?


ただ指をくわえて諦める必要はありません。 必要なのは、「給与という単一のモノサシ」で勝負するのをやめ、独自の価値方程式をつくることです。


具体的には、次の5つのステップ(戦略)を提案します。


【中小企業が生き残るための「新・賃上げ生存戦略」】

 ┌─────────────────────────────────────────────────────────┐
 │ 1. 「給与の総額」ではなく「可処分時間と心」で勝つ       │
 │ 2. 「ベースアップ」と「成果連動インセンティブ」のハイブリッド │
 │ 3. 「非金銭的報酬(トータル・リワード)」をオープンにする│
 │ 4. 「労働生産性の向上」とセットで賃上げを行う           │
 │ 5. 社長が「なぜこの給与なのか」を自分の言葉で語り尽くす  │
 └─────────────────────────────────────────────────────────┘


戦略①:「給与の総額」ではなく「可処分時間と心の余裕」で勝つ


大手企業が提示する「年収600万円」の裏に、月50時間の残業や、厳しい売上ノルマ、人間関係の殺伐としたストレスが存在するとしたらどうでしょうか。


もしあなたの会社が「年収450万円」しか出せないのだとしたら、その代わりに以下のような価値を提供できないかを考えてみてください。


  • 残業は月平均5時間以下(定時退社が当たり前)

  • 完全土日祝休み、有給消化率90%以上

  • リモートワークとフレックスタイムの完全自由運用

  • 職場の人間関係が穏やかで、心理的安全性が高い


現代の求職者、特にZ世代や子育て世代の優秀な人材は、「高年収だが激務で心が折れる職場」よりも、「適正な給与で自分の時間と家族を大切にできる職場」を猛烈に探しています。

年収の数字で負けているなら、「時間のゆとり」と「ストレスの低さ」で圧倒的な勝負を挑むのです。



戦略②:固定給の闇雲な引き上げを避け、「成果還元型」へシフトする


一度引き上げた「ベース(基本給)」を、業績が悪くなったからといって引き下げることは、日本の労働法制上きわめて困難です。体力のない中小企業が勢いで基本給を大幅アップさせるのは、経営上の大きなリスクを伴います。


そこで検討すべきは、「基本給の適正なベースアップ(例: +2%〜3%)」+「粗利還元型の明確なインセンティブ・決算賞与」の組み合わせです。


「会社全体の粗利益が〇〇万円を超えたら、その〇%を全社員に一律山分け還元する」

「個人の工夫でコストを〇〇万円削減したら、その一部を毎月の給与に還元する」


このように「どうすれば給与が上がるのか」のロジックを透明化し、社員が自らの工夫で給与を増やせる仕組みをつくることが、防衛的賃上げに頼らない強い組織を作ります。



戦略③:「非金銭的報酬(トータル・リワード)」を言語化・可視化する


給与明細に載る金額だけが「報酬」ではありません。


企業が社員に提供しているあらゆる価値を「トータル・リワード(総合的報酬)」として整理し、求職者や社員に正しく提示できているでしょうか?

【トータル・リワード(総合的報酬)の構造】

  ┌──────────────────────────────────────────────────────┐
  │ 金銭的報酬 : 基本給、役職手当、インセンティブ、賞与   │
  ├──────────────────────────────────────────────────────┤
  │ 福利厚生   : 住宅手当、食事補助、資格取得全額支援、  │
  │              退職金制度、書籍購入手当               │
  ├──────────────────────────────────────────────────────┤
  │ 成長的報酬 : 経営陣との距離の近さ、裁量の大きさ、   │
  │              新規事業への挑戦機会、外部セミナー受講  │
  ├──────────────────────────────────────────────────────┤
  │ 環境的報酬 : 快適なオフィス環境、最新PCの支給、      │
  │              人間関係の良さ、感謝を伝え合う文化      │
  └──────────────────────────────────────────────────────┘

例えば、「基本給は25万円だが、住宅手当が3万円出て、毎昼食代が補助され、最新のMacBookが支給され、資格取得費用が全額会社持ち」であれば、実質的な価値は「基本給30万円以上の他社」と同等以上になります。


この「目に見えない報酬」を言語化し、求人票や面接で誇りを持って語れるかどうかが、採用力を決定づけます。



戦略④:「生産性向上」なき賃上げをストップする


「給与を上げたから、もっと働け」と後から言うのは最悪の順番です。

賃上げを行う前に、あるいは賃上げと同時に行うべきは、「無駄な業務の削減」と「DX(デジタル化)・業務効率化」です。


  • 慣習で行っていた意味のない週次会議を廃止する

  • 紙とハンコの手続きをペーパーレス化する

  • AIツール(ChatGPT等)を導入して文章作成やデータ処理の時間を半減させる


業務の無駄を削ぎ落とし、これまで10人でやっていた仕事を8人でまわせる体制を作れば、浮いた2人分の人件費を残りの8人の給与に上乗せ(賃上げ)することができます。 これこそが、企業も社員も幸せになる「正当な賃上げ」の姿です。



戦略⑤:社長が「給与の理由」を自分の言葉で語り尽くす


データが示す通り、3〜50名規模の企業では「給与据え置き」を選ばざるを得ない局面があります。

そのとき、絶対にやってはならないのは「何も説明せず、コソコソと据え置くこと」です。


社員は社長の背中を見ています。


説明がないと、

「この会社は自分たちを買い叩いている」

「社長は自分たちの苦労を見ていない」と不信感を募らせます。


だからこそ、社長は全社員を集めて、自分の言葉でオープンに語らなければなりません。


「今期の会社の利益はこれだけで、原材料費がこれだけ上がった。本当はみんなの給与を+10%上げたい。けれど、会社を潰さず、みんなの雇用を絶対に守るためには、今年の基本給アップは+2%が限界なんだ。その代わり、こういう条件で利益が出たら決算賞与で必ずみんなに還元する。だから、一緒にこの苦境を乗り越えてほしい」


数字と誠実さをさらけ出して語られた言葉は、時に「無機質な数万円の昇給」よりも深く社員の心に刺さり、強いエンゲージメント(愛着)を生み出します。



7. おわりに:数字に振り回されるな。自社の「物語」を紡げ


株式会社マイナビの「賃上げ状況調査」のデータを、多角的な視点から解きほぐしてきました。


データが示しているのは、単なる「%」の数字ではありません。 大企業の激しい攻勢、中小企業の苦悩、業種ごとの明暗、そして新規採用者と既存社員の間で揺れる現場の葛藤です。


他社が「賃上げ+10%」を出したからといって、焦って自社の財務を破壊するような無謀な賃上げに走る必要はありません。 かといって、「うちは中小企業だから」と諦めて、社員の努力や物価高の苦しみを無視して良いはずもありません。


有効求人倍率のときと同じです。 私たちは「平均値」や「統計」と戦っているのではないのです。

あなたの会社で働き、毎日汗を流してくれている「社員一人ひとり」。 そして、これからあなたの会社のドアを叩こうとしている「未来の仲間」。


その「一人」に対して、あなたはどんな価値を提供し、どんな未来を約束できるのか。


給与という数字の高さだけで人を惹きつける時代は、終わりを告げようとしています。 これからの時代に選ばれるのは、「適正な給与」と「働く意味」、そして「人間的な温かさと成長」をセットで提供できる企業です。


数字に振り回されるのは、もうやめましょう。 自社にしか語れない「働く価値の物語」を、今日から自分の言葉で紡ぎ始めてみませんか。


(※本記事内のデータは、株式会社マイナビ「中途採用状況調査」に基づき作成・分析しています)




この記事の執筆者

坂本 迪宇

ネットフェニックス合同会社 代表取締役


神戸市在住。営業(全国5位)、コールセンターの現場改善、難関塾(灘中・洛南・東大寺・開成・麻布など)のマーケティング(10年で灘中合格約100名)を経験。泥臭い「現場の対話」と「再現性のある仕組み」を武器に、企業の集客と組織づくりを支援しています。


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